ロール曲げ加工で円筒を製作するためには、まず曲げる前の板の寸法を計算する必要があります。これを展開(板金展開)と呼びます。
基本的な考え方は、「展開寸法=板厚の中心の円弧」です。
板を円筒状に曲げる時、板の外側は無理やり伸ばされた状態になり、逆に内側は縮まります。すると伸びもせず縮みもしないところがあるはずで、通常はそれが板厚のちょうど真ん中の部分です。これを中立線と呼びます。
中立線は曲げる前も曲げた後も同じ長さですから、この長さの板を曲げれば目的の円筒を作れることになります。つまり通常は「中立線=板厚の中心の円弧=展開寸法」です。
ただし、厚板ロール曲げの場合は特別に考慮しなければならない点が2あります。
1)板厚に対して曲げ半径が小さくなると、中立線が板の中心より内側に移動する。
2)両端部分は厳密には完全に曲がらないため、内角がぶつかる。
以下、1つずつ説明します。
1)板厚に対して曲げ半径が小さくなると、中立線が板の中心より内側に移動する。
朝倉健二氏の『塑性加工』(共立出版株式会社)によると、「曲げ半径と板厚の比率が5よりも小さくなると、中立線は内側に移動する」とあります。
例えば板厚40mmであれば、内R200よりも小さくなると、中立線が板の中心よりも内側に移動するということです。つまり、展開寸法は板の中心の円弧よりも短くなります。逆に言うと、板厚の中心の円弧で切断した板を曲げてしまうと、想定より大きな円筒が出来てしまうのです。
(厚い板を無理やりきつく曲げると板が伸びてしまう、と考えるとイメージしやすいかもしれません。弊社ではこの現象を通称「伸び」と呼んでいます。)
さて、理論的には曲げ半径と板厚の比率がいくつの時にどの程度中立線が内側に移動するのかがわかれば展開寸法を計算できることになりますが、残念ながらその移動値を正確に求める方法がありません。
そこで弊社では、「板厚何ミリで曲げRがいくつの時に中立線がどのぐらい内側に移動したのか」というデータを蓄積して、展開寸法の推測に役立てています。
2)両端部分は厳密には完全に曲がらないため、内角がぶつかる。
次に、ロール曲げは端まで完全に曲がるわけではないということも展開寸法に影響します。例えば板厚40mm、曲げ径Φ600で、板の端が板厚分だけ曲がらないとします。すると、ロール曲げ加工を行うと下図のように内角が先にぶつかってしまいます。
R/tは5以上ですので、中立線は板厚の中心と考えます。普通に計算すれば展開長は
板の中心の直径640mm x 3.1416 = 2010.6
です。しかし、この長さの板を曲げると、上図のように外周部分で10.68mm長い円筒が出来上がってしまうことになります。つまり、外径が想定よりも約3.4mm大きくなってしまうということです。(本来は外Φ680のはずが、外Φ683.4になってしまう。)
では、もしX開先の板でしたらどうでしょうか?
こちらの場合は、隙間5.34mm分縮まりますので、直径で約1.7mmの誤差です。(本来は外Φ680のところ、外Φ681.7。)
最後に、内開先の板の場合はどうでしょう?
こちらの場合は隙間が完全になくなりますので、長さ2010.6mmの板を曲げれば想定通りの直径になります。
このように、開先形状も展開寸法に影響するのです。
山十佐野製作所では、板の伸びや開先形状、さらに後工程の溶接や旋盤加工のことも考慮しながら展開寸法を推測しています。ただ、想定外に板が伸びてしまったり、逆に伸びなかったりしてしまうことがあるのも事実です。そのような時は、もし想定外に伸びてしまった場合には継目を削り、短過ぎてしまった場合にはルートギャップ(隙間)を空けることでご了承いただいております。
今後もデータやノウハウを蓄積し、できる限り正確な展開寸法の計算ができるように尽力してまいります。
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