2026年11月3日火曜日

耐摩耗鋼(ABREX・HARDOX)の曲げ加工 ― まずロール曲げでできるか判断します

「耐摩耗鋼を曲げてもらえますか?」

山十佐野製作所では、このようなお問い合わせを毎年いただいております。日本製鉄のABREX(アブレックス)400・450・500、SSAB社のHARDOX(ハルドックス)450・500など、耐摩耗鋼の曲げ加工は2009年から手がけてまいりました(JFEスチールのEVERHARD(エバーハード)のお問い合わせもいただいております)。

弊社にご依頼いただくメリットは、ロール曲げでできるかどうかを判断することです。耐摩耗鋼の曲げのご依頼をいただくと、まずロール曲げできるかどうかを判定し、できるものはロール曲げで加工します(その方が費用を抑えられるためです)。ロール曲げできないものは、協力業者でプレスブレーキ曲げをしてもらっています。

本記事では、これまでの実績から分かった耐摩耗鋼の曲げの難しさ、ロール曲げとプレス曲げの使い分け、ご依頼の際にお知らせいただきたいことをまとめました。

入荷した耐摩耗鋼の板

耐摩耗鋼はなぜ曲げにくいのか

耐摩耗鋼は、建機のバケットや破砕機、シュート、ホッパーなど、土砂や石がこすれて摩耗しやすい部品に使われる、硬くて強い鋼板です。(耐摩耗鋼の溶接については「Hardox(ハルドックス耐摩耗鋼板)の溶接」の記事もご覧ください。)

硬くて強いということは、曲げるときも大きな力が必要になるということです。弊社がロール曲げの計算に使っている降伏点(曲げ始めるのに必要な強さの目安)は、SS400が255N/mm²なのに対して、ABREX400は1025N/mm²、ABREX500は1373N/mm²です。SS400の約4〜5倍の強さがあることになります。

そのため、同じ板厚・同じ直径でも、SS400なら余裕で曲げられる寸法が、耐摩耗鋼では機械の能力を超えてしまうことがあります。さらに、強い材料ほど曲げた後の戻り(スプリングバック)も大きくなります。

ロール曲げか、プレス曲げか

ロール曲げできるかどうかは、材質の降伏点・板厚・幅・曲げる直径から、弊社のベンディングロールの能力で曲げられるかを計算して判定します。耐摩耗鋼は降伏点が高いため、SS400なら問題なくロール曲げできる寸法でも、耐摩耗鋼では不可となることが少なくありません。

材質・板厚・曲げ径・幅を入力して、弊社のベンディングロールでロール曲げできるかどうかの目安を確かめられるページもご用意しています(耐摩耗鋼ロール曲げ可否自動判定(予測))。あくまで予測ですので、図面をお送りいただければ、弊社で判断してお見積りいたします。

ロール曲げで無理なものは、協力業者でのプレスブレーキ曲げに切り替えます。円筒や円すいも、プレス曲げで少しずつ曲げて形にすることができます。また、1枚の板の中で、小さいRの部分はプレス曲げ、大きいRの部分はロール曲げ、というように両方を組み合わせて仕上げることもあります。

耐摩耗鋼の曲げで注意している点

1)スプリングバックが大きい
耐摩耗鋼は、曲げすぎたかなと思うぐらい曲げても、バネのように戻ってしまいます。(詳しくは「ロール曲げのスプリングバック」の記事に、耐摩耗鋼を曲げたときの写真を載せています。)
例えば板厚9mm・直径600mm程度の円筒を曲げたときは、230トンのベンディングロールでは曲がりきらず、途中から100トンのベンディングロールに載せ替えて仕上げました。直径が小さいほど、この戻りとの戦いになります。

2)小さいRで曲げると割れる
耐摩耗鋼は一般的な鋼材より伸びが小さいため、小さいRで曲げると曲げの外側に割れが出ます。日本製鉄のガイドラインでは、例えばABREX400を圧延方向に沿って曲げる場合(L方向曲げ)、限界曲げ半径の目安は板厚の4.5倍以上とされています(日本製鉄 ABREX耐摩耗鋼板 ―曲げ加工ガイドライン―)。HARDOXも、メーカーの技術資料でグレードと板厚ごとに最小曲げ半径が決められています。
同じガイドラインでは、圧延方向と直角に曲げる方が曲げ半径を小さくできることや、ガス切断面の硬化層・キズが割れの起点になることも示されています。

メーカーの最小曲げ半径より小さいRで曲げたり、こうした条件を確かめずに曲げたりすると、下の写真のように曲げの外側から割れてしまいます。

最小曲げ半径を確かめずに曲げると、耐摩耗鋼は曲げの外側から割れる

ロール曲げで作る円筒や円弧はRが大きいので、割れより先にスプリングバックや機械の能力が問題になります。一方、プレス曲げは小さいRまで曲げられる分、割れに注意が必要です。

弊社では、材質・板厚・圧延方向・切断面の状態から、メーカーが公表している最小曲げ半径を確認して割れないRを確かめ、そのうえでロール曲げかプレス曲げかを決めてお見積りしています。曲げRに迷われている段階でも、お気軽にご相談ください。

3)端まで曲げられる
弊社のベンディングロールは板の端(はな)まで曲げられるので、端に平らな部分が残りません(「ロール曲げの端(はな)曲げ加工とは?」)。一方、プレスブレーキ曲げの場合は、端の近くを曲げるのにつかみ代(両端の余り)が必要になることがあります。

4)穴・切欠きのある部分は精度が落ちる
穴や切欠きのある部分は、そこだけ曲がり方が変わるため、精度が落ちやすくなります。穴あけ済み・型切り済みの板の場合は、事前にご相談いただけますと幸いです。

5)材質は正確に
同じ寸法でも、材質によって必要な力もスプリングバックも大きく変わりますので、材質は銘柄・グレードまで正確にお知らせいただけますと助かります。

ご依頼の際にお知らせいただきたいこと

耐摩耗鋼の曲げ加工をご検討の際は、以下をお知らせいただけますとスムーズにお見積りできます。

  • 材質(ABREX400、HARDOX450 など、銘柄とグレード)
  • 板厚・幅・長さ
  • 曲げ寸法(内径・外径のどちらの寸法か)と角度
  • 求められる精度
  • 穴・切欠き・開先の有無
  • 材料をご支給いただくか、弊社で手配するか

耐摩耗鋼は一般的な鋼材より曲げにくく、手間もかかるため、加工費は高くなります。弊社では、まずロール曲げを検討し、ロール曲げで無理な場合は協力業者でのプレスブレーキ曲げや、両者の組み合わせをご提案いたします。

ABREX・HARDOXなどの耐摩耗鋼の曲げで、ロール曲げでできるかどうか知りたいときは、お気軽にご相談いただけますと幸いです。

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